「血脈が紡ぐ信仰の果てに、、故郷の島の未来を想う」 

皆様、初めまして、ドキュメンタリー映画「祈りの島 五島列島」の監督を担当します榊英雄と申します。
私の生まれ故郷は 五島列島福江島です。進学と自分の未来を信じて五島を離れて、30年経ちます。不思議な事に自分の描く未来は変化し、現在の職業はファミリーツリーという会社を立ち上げて、俳優と映像の監督を続けてます。
家族はミュージシャン「橘」いずみから「榊」いずみとして活動している妻と2人の姉妹に恵まれ、東京で暮らしています。
今回の作品を製作するきっかけは、我々の結婚でした。そしてカトリック教徒ではない二人が、故郷の教会で式を挙げる為に大事なことは、しっかりとカトリックの歴史を学び、理解することでした。
日々の勉強の中で、結婚の準備とご挨拶を兼ねて福江教会の小島神父(2006年当時)にご面会の時間を頂き、我々の「榊」「橘」のルーツと我々の小さな歴史を知って頂き、また「小島」神父のルーツと信仰の歴史を聞かせて下さいました。
そこで妻と二人でお聞きしたのは、想像を絶する信仰の歴史と、静かに逼塞して自ら語る事のない、語るすべのない、弾圧と殉教の伝聞でした。
小島神父の故郷は「久賀島」。
福江島のすぐ側に寄り添う様にある「久賀島(ひさかじま)」、福江出身の私も上京前もそして2006年時まで、一度も訪れた事のない未知の島でした。勿論中学高校の同級先輩、両親の知り合いには同じ久賀島出身の方もいましたが、それ以上の興味も行動もありませんでした。
その久賀島で起こった「牢屋の窄(さこ)」と呼ばれる出来事、そこで命を落とし、生き残った家族の血脈の歴史。その弾圧を受けた人々の中に「小島」神父のご先祖もいらっしゃいました。幕末の動乱から、迎えた新しい時代の明治、その初頭に起こった「五島崩れ」と呼ばれるカトリック教徒への苛烈な弾圧迫害。自分の無知を感じながら、初めて聞く歴史、それも遥か歴史上の人物が登場することで知り得た歴史ではない、150年前という曾祖父達の生きていた近いと感じる時代の隠され語らなかった歴史に私達は驚き、そのご縁を持って、初めて久賀島を訪れたのでした。
しずかに語るその殉教の地で、眺めた青空は忘れられません。
と同時に私はいつかこの殉教とそこから生き抜いた血脈の行く末を残したいと誓ったのでした。そして誓いから四年後、東京の街で今回の企画に賛同しプロデューサーとして、共に作品を創る仲間と出会いました。
彼の名字も「小島」。彼もご先祖も久賀島がルーツで、牢屋の窄を生き抜いた血脈の末裔でした。そして、何かに導かれ、この企画は、殉教から150年目となる2018年10月28日からクランクインしました。故郷の歴史と現在、そして未来を描く事で見えて来る、日本の姿。人口減少が始まり、久賀島の人口は350人、そして全国の島々も過渡期を迎えている。信仰の果てに、島に人が、祈りが無くなってしまう未来が近いかもしれない。そこに我々は、どうカメラを向けるのか、少なくとも私が生きている間は、教会から聴こえる祈りの声が、か細くとも届いて欲しい。そして信仰に関係なく人が生きている島を守りたい。果たしてそれは、どうすればよいのか。
「祈りの島 五島列島」を何卒よろしくお願い致します。
監督 榊英雄  平成31年4月26日
追記。 この作品の撮影カメラマンの名前も「小島」です。なにかに導かれているようです。