インクの香りが漂う工場の中で、カメラに向かって微笑んでくれたのは活版印刷 晋弘舎の4代目である横山桃子さんだ。父親であり、3代目でもある弘蔵さんの背中を追いかけながら、100年以上にわたって受け継がれてきた活版印刷の伝統と歴史、そして確かな技術を守り続けている。
日本では幕末から長らく文字印刷の中心となっていた活版印刷。それまで一般の人には手の届きにくかった書物が急速な広がりをみせ、文明開化を加速させた。現在ではその数こそ少なくなったものの、名刺や案内状など精度の高い印刷物が求められる分野で活版印刷は生きている。
数えきれないほどの活字が並ぶ棚の前で、迷うことなく黙々と字を拾う桃子さんの姿からは凛とした美しさが感じられる。その手によって一つ一つ組みあげられる文章。出来上がった作品からは深い味わいが伝わってくる。小値賀島に息づく活版印刷の伝統と歴史に触れた瞬間だった。